あるお客様の所に先輩と一緒にお邪魔した時の事です。
最初のうちこそ、お客様と先輩の話をしっかり聞いていたのですが、そのうち、話の内容がよくわからなくなってきて、だんだんと眠くなってきてしまいました。
一生懸命、起きていたつもりだったのですが。。。。。。
後日、先輩から。。
「お前、この前、○○さんの所へ行った時寝てたのか?」
自分の中では、寝ていたつもりはなかったのですが、お客様にはそうは見えなかったようです。
「申し訳ございません。」
頭を下げることしかできませんでした。
「ったく。寝てたら、寝てたって言えよ。○○さん、ヘソまげちゃって二度とお前を連れてくるなって言われたよ。」
ショックでした。
「二度と来るな。」
それまでの自分の人生の中で、間接的ではあるにせよ、そんな言われ方をした事はありませんでした。。。
その後、そのお客様は、私の担当になりました。
もちろん、それまでの間に先輩がお客様をなだめて下さり、その後、先輩と同行して平謝り。
なんとか許して下さったのです。
で、東京を離れるまで、担当としてそのお客様とお仕事をさせて頂きました。
この時、先輩が、お客様をなだめてくれなかったら。
謝罪の機会を与えてくれなかったら。。。
多分、二度とそのお客様の元にはお邪魔できなかったでしょう。
東京での社会人生活は、毎日、大変な想いをしていましたが、その反面、楽しい事もありました。
週に3回程度、先輩に連れられて、飲みに出かけてました。
それまでの学生が行くようなお店ではなく、社会人として大人の飲み方をその先輩にいろいろと教わりました。
今、思うと私の社会人としての公私にわたる基礎は、この頃、学んだのだと思います。
しかし、仕事そのものは、つらかったです。
最後まで馴染めなかったのが、「数字」
毎月毎月、ノルマの数字が決められて、その数字をクリアできないと怒られまくっていました。
東京で働きはじめて、丸2年が過ぎた頃。
仕事に慣れ始めて、それなりに順調に仕事をこなしていたのですが、毎月毎月の数字の追求がキツク、月末の会議が憂鬱でした。
上司は、数字をあげている人には当たりが柔らかいのですが、数字が今一つの人には、とても当たりが強かったです。
仕事なので、当たり前と言ってしまえばそれまでなのですが、なんとなく違和感を感じていました。
その頃からです。
自分の将来について、いろいろと考え始めたのは。
大学を卒業したら、中小の会社に入って、そこの中心になって、バリバリ仕事をこなすビジネスマンになりたい!!
社会人生活に漠然とした夢を持っていました。
しかし、現実は、数字に追い回される毎日。
「何かが違う。」
仕事そのものは、面白かったです。
社会人3年生のまだまだヒヨッコにも関わらず、ある程度の権限を持たされて仕事を切り盛りしていました。
しかし。。。
数字を上げている社員は厚遇されて、数字を上げられない社員は左遷させられる。
たった丸2年の間にもそういった人事を見てきました。
会社の評価が「数字」ですから、当然と言えば当然です。
でも。。。
気がついたら、転職雑誌を買っていました。
実は、この頃、会社に内緒である企業に内定をもらった事もありました。
(結局、その会社には勤めませんでしたが・・・)
「辞めたい」
誰にも相談できず、というよりも、それまでもそうでしたが、全て、自分自身で考えて決めてきました。
(これも、決して褒められた事ではないと思います)
やがて、背広の内ポケットには、常に、「退職願い」がしのぶようになりました。
ある日。
上司が、私の背広に興味を示したのです。
その上司は、悪ふざけで他人の背広を勝手に羽織るという事をよくする人なのです。
何故、そういう事をするのか未だに謎ですが・・・
で、背広を着ると必ず背広のポケットを探ります。
その時も、そうでした。
「まずいっ!」
咄嗟にそう思いましたが、時すでに遅しです。
上司は、案の定、石井の背広の内ポケットを探り始めました。
「なんだこれ?」
退職願いが見つかってしまいました。
それまでふざけていた上司が急に真面目な顔になって背広を脱ぎ、自分の机の前に行って、
「石井、ちょっと。」
当然、退職願いのことです。
「機会があったら提出しようと思ってました。」
「わかった。取り敢えず、これは見なかった事にする。また、今度、ゆっくり話そう。」
そう言って、退職願いは封を切られることなく破り捨てられました。
私自身、退職願いをしのばせてはいましたが、本当に提出するかどうか、決めかねていました。
上司が破り捨ててくれて、ホッとした気持ちもありました。
それから、何日かたったある日。
会社の他部署の上司とともに客先を訪問した時です。
お客様が、こんな事をおっしゃいました。
「石井さん。さっき、会社から電話があって、すぐに帰ってこいって。」
ビックリしました。
当時は、ポケベルも携帯電話もなかった頃ですから、外にいる営業マンを捕まえるには、営業マンからの定期連絡を待つか、客先に伝言を残しておくしか方法がありません。
ですから、客先に伝言が入っている事は、たまにありました。
しかし、
「すぐに帰ってこい。」
という伝言は初めてです。
動向した他部署の上司に話すと、
「そりゃ、すぐに帰らないと。大丈夫。後は俺がやっておくから。」
と、おっしゃって頂き、急いで会社に戻りました。
忘れもしない、会社に入って3 年が過ぎようとしていた1988年1月の事です。