「社長の片腕募集」
とうたった一面広告は、岐阜県の小さな酒蔵が発信元でした。
この小さな酒蔵の社長が始めたビジネスの「事務局長」を募集していました。
このビジネスは、日本全国の蔵元のお酒を、日本全国の酒問屋や酒小売店に販売する仕事。
それも、当時は一般的ではなかったコンピューターネットワークを活用したもの。
募集記事には、
「お酒が好きで、パソコンが触れて、営業ができる人募集」
というような謳い文句が踊っていました。
「お酒は好きだし、パソコンは学生の頃から触っているし、営業は9年間やってきたから大丈夫。」
まさに「天職」だと思いました。
応募したら、社長と話が合ってしまって、とんとん拍子で採用が決定。
いきなり、事務局長として働き始めました。
この会社が扱っているのは日本酒。
日本酒は、一般消費者相手の商品ですので、営業方法もそれまでのいわゆる「B to B」のビジネスモデルとは微妙に違ってきます。
しかし、最終的には、人と人。
どんなビジネスでも「人と人」。
最終的にモノを言うのは、「人間関係」。
この事がしっかりとわかりました。
それと、この時にしっかりと学んだのは、「差別化」です。
日本酒は、どこまで行っても日本酒です。
他社との差別化がはかりにくい商品です。
大吟醸とか純米とか。
山田錦とか五百万石とか。
もちろん、他社と違う所はあります。
しかし、ほとんどの場合、下の様な文章になってしまうんです。
「自然環境豊かな○○の土地で、○○山系の伏流水をぜいたくに使い、熟練の技で丁寧に仕込んだ逸品」
細かい部分で違いがあったりしますが、大体が上記の様な謳い文句です。
これでは、他社との差別化をはかる事ができません。
ましてや、私の仕事は、日本全国の蔵元のお酒を販売することです。
それぞれの特徴や違いを出さない事には、「どこのお酒を買っても一緒」てな事になってしまいます。
そこで、考えたのが、まず、「見た目」
ビンの色や、ラベルデザイン。
特別に凝ったデザインでなくてもいいんです。
他社との違いがわかれば。
例えば、ある蔵元は、力強い筆文字でラベルを書かれてます。
力強い筆文字で書かれたお酒は、どことなく「しっかりした味わい」を連想させませんか?
また、その逆に優しく柔らかい線の筆文字は、「優しい味わい」を連想させます。
ビンの色も、涼やかな色の瓶は、「すっきりした」お酒を連想させます。
そういった違いを出してもらう様に、蔵元に話をしていきました。
そうすると、徐々に蔵元が提案してくる商品が変わってきます。
そこで、今度は、酒問屋や酒小売店に配布する資料に、商品写真を入れた提案書を混ぜていきます。
日本全国北から南へバラエティーに富んだお酒が、それぞれ特色あるデザインが施されたら見てるだけでも楽しくなります。
これができてくると、今度は、さらに蔵元にフィードバックです。
蔵元に売れ筋商品のデータを提出します。
その際、単純に商品名と価格だけではなく、商品の写真も掲載していきます。
それを眺めていると、なんとなく売れる商品というものが見えてくるのです。
前向きな蔵元は、この資料を元に商品開発をされてました。
(今、飛ぶ鳥を落とす勢いの山口県の某蔵元とも当時取引があり、この事をおっしゃってました。)
差別化というのは、こんな些細な所からでもできるんだ、という事を実感しました。